散文2.歩くのが遅い
自慢じゃないが、僕は歩くのが早いほうではない。
革靴を履いて、忙しそうに歩くスーツ姿の男性はもちろん、パンプスを履いた女性にも、ローファーを履いた女子高生にもよく、颯爽と抜かれて行ってしまう。
気分が良い時は、その気分を長く感じるために、目的地にはゆっくりと着きたくなる。
5分かかるところを7分くらいかかるようにして、ゆっくりとコンクリートを踏みながらゆくのだ。
気分の悪い日には、足を前に出す推進力なんぞ持ち合わせることはできないので、おのずとスピードは落ちる。そしたら、5分かかるところも8分はかかる。
とすると、5分かかる道を5分かけて歩くのは稀なことなのかもしれない、
実はその5分と思っていた道も、実は「急いだら5分」くらいなのかもしれないし「頭の中カラッポ状態なら5分」なのかもしれない。
いやしかし、そもそも頭の中カラッポ状態なら、時間なんて気にしないから計りようがないから、どうしたらよいのだろう……
なんて考えていたら、気づくと最寄りの駅から家まで歩き終わっていた。
これはチャンスと思い、列車の到着時刻から今の時間を引いてみると、どうやら、18分ほどで歩ける道を25分かけて歩いたようだった。
ということは、5分で8分というペースがあっているのだろうか。
いや、でも今日は赤信号に引っかかった記憶がないからそれをふまえると修正が必要で……
などと考えてはいたが、そんなことよりは野球の試合のほうが気になったので、さっさと家に入った。
おそらくこれは、永遠に解けない謎と化すのだろう。解く必要もないけども。